HとSの本 ~彼と彼女の話~

 ここは最初、とても静かだった。


 喧騒が届かない、

 光が薄い、

 わたしだけしか感じられない小さな世界だった。

 蔑む声も、
 冷ややかな視線も、

 畏怖する言葉も、
 拒絶の眼差しも、

 何もなかった。

 本当にそこには……

  人の温もりさえも、なかったんだ。

 そんな世界に、貴方は一人で待っていた。

 謝るのは――――



< 18 / 29 >

この作品をシェア

pagetop