HとSの本 ~彼と彼女の話~
「自己満足だった。
 君の隣にいて、興味じゃないけど、触れてみたいと思った。
 独りだった君に、はじめはただそれだけなんだ」

 誰も彼もが怖がった。
 誰も彼もが蔑んだ。
 世界はわたしにとって痛みと孤独に等しかった。

 そう、
  わたしはあの時逃げ出すべきではなかった。

 怖がるべきではなかった。

 痛い事と悲しい事に慣れすぎてしまって。

 人の優しさなんて、
  裏切りの道具にしか思えなくて怖かった。

 人の温もりなんて、
  与えられるはずのない絶望だと思いこんだ。

 そんなはずが、
  あるはずがないんだと、
   信じる事も忘れていた。

 謝るのは――――



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