HとSの本 ~彼と彼女の話~
「一緒にする気はない。けれど、自分も迫害された思いが、記憶がある。
 けれど助けてくれた人がいた。
 優しさと温もりを与えてくれた人がいた。
 そんな人に、俺はなりたくて――――君に近づいた」

 くすんだ黄金色の中にある、仄かに黒い赤がわたしを見た。

 ああ、彼も同じだ。

 彼もまた、汚れた希望に似た存在だった。



 紅い色は悪魔の証。
 紅い色は魔性の色合い。
 翼も、瞳も、髪も、紅い色は魔の物として扱われる。

 瞳を汚す事で、彼はまともに生きられたのか。

 けれど並大抵の事じゃない。
 それが救いなのだとしても、失明の危険を背負ってまで人と触れ合おうとした、諦めない心はわたしとは決して違う。

 ずっと逃げた。
 隠れたくて、
 見られたくなくて、
 びくびく怯えて、
 小心で弱い物がわたしだ。

 そんなわたしに、手を伸ばせる人が大きすぎて、まともに見ていられない。

 謝るのは――――


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