HとSの本 ~彼と彼女の話~
 でも、と彼は言う。
 その言葉はどこか明るくて、吹っ切れていた感があった。

 紅い色が、わたしを見る。

 夕焼けのような明るさが、沈んでいく暗さを跳ね除けて。

「無理なんだ。
 俺に君は救えない。
 同じようになれだなんて、言えるはずがない」

 その痛みを、
  苦しみを、
   危険を知っているから。

 同じようにわたしは救えないと、そう言った。

 悲しみはない。
 諦めはない。
 そもそも、

 そんな救いをわたしは求めていなかった。

 怖がりで、
 痛がりで、
 弱虫なわたし。

 あふれんばかり救いは眩すぎて、今更そんな世界を羽ばたけない。
 今更そんな世界に、足を踏み入れる勇気もない。

 そんな多くの救いを、わたしは望んでいなかった。

「だからさ――――」


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