HとSの本 ~彼と彼女の話~



「ごめん。
 俺は、君に笑ってほしいだけなんだ」



 ――――謝るのは。



「だから、もしも、叶うのなら――――」

 手が、差し伸べられた。
 深い、深い闇の底から。
 希望を手にしようと、人ではない誰かが手を伸ばしてくれた。



「笑った顔が見てみたい。
 傍にいたら、だめかな」



 今なら、あの言葉が分かる。

 ある箱があった。その中にはこの世の悪い物ばかりが詰め込まれていた。たった一つ、希望を閉じこめて。
 悪の中にあった光を希望だと受け入れるはずがない。
 人は希望を受け取らない。
 わたしは、箱の中の希望だと言われた。

 誰も彼もが手に取る事はないけれど、必ず一人が希望を握る。
 希望は与えられる物で、誰かが望む者だから――――

『貴方は希望。
 いつかその手を、
 誰かが握ってくれるから――――』


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