HとSの本 ~彼と彼女の話~

彼の雨

「――――ごめんなさい」


 その声は、俺の物ではなかった。
 涙に濡れて、声は乾いて、謝ろうという誠意と感謝の言葉。

「ごめんなさい、
 ごめんなさい、
 ごめんなさい」

 少女はただ謝り続けた。
 謝るのは――――わたしの方だ。
 そう言わんばかりに。

「ごめんなさい!
 ごめんなさい!
 ごめんなさい!」

 何がそんなに、彼女の心を縛ったんだろう。
 原因は自分だというのに、それが全く分からない。
 人の心が理解できないのは当たり前だけれど、泣いている女の子を助けられないでする、いいわけじゃない。



 ぎゅっと握り締められた、小さな手を
  ――――そっと開いた。



 謝り続けた彼女が、自分を見た。泣き腫らして、寂しくて、悲しくて、様々な感情が入り混じった紅い瞳。

 もういいよ。

 精一杯の気持ちを込めて、手を握った。

 もう泣かないでほしい、どうして泣いているのか分からないから。彼女の視点に俺は立てないから。
 いつか、その場所にたどり着く。

 それは、笑顔を見るためにも必要で

 自分が望む事だから――――


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