HとSの本 ~彼と彼女の話~
「…………食べる?」

 先ほどからじっと、まずは手にしたタマゴサンドを見て、次にバスケットの中にあるサンドウィッチに視線が固定されていた。
 自分が口にした事が、それほど予想外だったのか。
 それとも気付かれていないと思っていたのか。
 ぼんやりとした表情に、先ほどの消極的な色はない。

 まさか、と思った。
 そんな事はないだろうと思いながら、

 次のサンドウィッチに手を伸ばし、

 それを彼女に差し出した。

「え…………」

 小さな声だった。
 よく耳を澄ませていなければ、聞き洩らしてしまいそうなほど。

 反射的だったのだろう。目の前に出されたそれを、彼女は手に取った。

 そのまま食べるのかと思いきや、イレギュラーが発生した。



 ――きゅるるる。



 動物の鳴き声かと思った。

 こんなところにどんな動物がいるんだろうと、思わず探そうとした。しかしその前に彼女が立ち上がっていた。

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