HとSの本 ~彼と彼女の話~
ある箱があった。
その中にはこの世の悪い物ばかりが詰め込まれていた。
けれど、その中には希望という輝きがあった。
それは人に与えられるものである。
されど、悪の中にあった光を希望だと受け入れるはずがない。
人は希望を受け取らない――――
「…………いやな夢」
古い夢を思い出した。
母親にずっと、ずっと聞かされてきた絶望の中の希望の話。
お前は、箱の中の希望だと言われた。
誰にも手に取られない、そんな希望がわたしなんだ。
ぶんぶんと頭を振って起き上がる。時刻は既に、お昼休みを半分回っていた。
彼を避けて一日、二日、元の空虚さが戻って来た事に安心し始めている自分がいた。
裏庭に行く事はなく、けれど人目を気にして、わたしだけにあてがわれた教室でお昼を食べていた。
他の校舎からは隔離された、お城の塔みたいな一室。
そこからは、裏庭の景色がよく見えてしまっていた。
「…………またいる」
お昼を知らせる鐘の音。
それからきっかり五分経って、彼はまた現れた。
それが日課、彼はわたしの存在を待つ事なくお弁当を広げた。
そしてそのまま、午後の授業が始まるまでの間ずっと座っていた。
わたしは彼が座る事に許可などもらっていない、
彼がお弁当を食べ始める事に許しなどえていない、
そもそもわたしはずっと返事をしなかったのだから。
わたしのいない空間で、わたしがいる日常を繰り広げている姿は。
見ていて心が痛むものだった。
逃げた自分が悪いんだと、まるでここから見ているのが分かっているんじゃないかと、そう思えるほどに痛かった。
「なんで…………そこまでするの?」
わたしは、決して取られない汚れた希望なのに。
その中にはこの世の悪い物ばかりが詰め込まれていた。
けれど、その中には希望という輝きがあった。
それは人に与えられるものである。
されど、悪の中にあった光を希望だと受け入れるはずがない。
人は希望を受け取らない――――
「…………いやな夢」
古い夢を思い出した。
母親にずっと、ずっと聞かされてきた絶望の中の希望の話。
お前は、箱の中の希望だと言われた。
誰にも手に取られない、そんな希望がわたしなんだ。
ぶんぶんと頭を振って起き上がる。時刻は既に、お昼休みを半分回っていた。
彼を避けて一日、二日、元の空虚さが戻って来た事に安心し始めている自分がいた。
裏庭に行く事はなく、けれど人目を気にして、わたしだけにあてがわれた教室でお昼を食べていた。
他の校舎からは隔離された、お城の塔みたいな一室。
そこからは、裏庭の景色がよく見えてしまっていた。
「…………またいる」
お昼を知らせる鐘の音。
それからきっかり五分経って、彼はまた現れた。
それが日課、彼はわたしの存在を待つ事なくお弁当を広げた。
そしてそのまま、午後の授業が始まるまでの間ずっと座っていた。
わたしは彼が座る事に許可などもらっていない、
彼がお弁当を食べ始める事に許しなどえていない、
そもそもわたしはずっと返事をしなかったのだから。
わたしのいない空間で、わたしがいる日常を繰り広げている姿は。
見ていて心が痛むものだった。
逃げた自分が悪いんだと、まるでここから見ているのが分かっているんじゃないかと、そう思えるほどに痛かった。
「なんで…………そこまでするの?」
わたしは、決して取られない汚れた希望なのに。