魔女のチョコレート
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魔女のチョコレート
バレンタイン間近のある日の社員食堂。
「ねぇ知ってる?」
同期入社の同僚、ヤエが声をひそめて話しかけてきた。
わたしも調子を合わせるように、声をひそめて答えた。
「なに?なに?誰かのうわさ話?」
「じゃなっくって、魔法のチョコレートの作り方よ!」
ヤエはわたしの耳元に顔を寄せてつぶやいた。
「魔法のチョコレート?」
わたしは聞き返した。
「そう、それを好きな相手に食べさせると・・・」
「それを好きな相手に食べさせると?」
「もう、大変なことになっちゃうらしいわよ!」
「へぇ・・・そうなんだぁ~、でその魔法のチョコってどこに売ってるの?」
わたしは、その続きを促した。
「作るのよ、手作り!手作チョコのキットが売ってるからね、それを利用してちょっとした細工をすればOKなんだって」
「ちょっとした細工って、どんな細工よ?」
「いい、キョウちゃん、しっかり聞くのよ」
「もったいぶらずに、早くぅ・・・」
「要するにね、手作りチョコを作って、仕上げに、自分の左手の薬指の先に針を刺して、生血を一滴混ぜる。そして、その生血が相手の全身の細胞と反応して、熱烈な愛に変わるらしいわ!」
「ちょっと痛そうだけど、魔女っぽくてメチャクチャ効果ありそう!」
「でしょ?」
わたしは、早速その日の帰りに手作りチョコキットを買い求めた。
もちろん、昼間ヤエから聞いた魔法のチョコを作るために。
そして、それを愛しの中山君に食べさせるために。
手作りチョコのキットの説明を読みながら早速作り始めた。思っていたよりもかなり簡単にチョコを作ることが出来そうだった。
作業はあっという間に進み、仕上げの段階に入った。自分の左手の薬指の先に針を刺して生血を一滴落してよく練り合わせるだけになった。
まだやわらかいペースト状のチョコの入った容器、その真上に左手の薬指を構え、右手に持ったマチ針でプツリと刺した。
一瞬だけチクリと痛みを感じた。
「この痛みは、愛の痛みね!」
つぶやきながら、わたしはわたしの想いがタップリとこもった生血を一滴、チョコの上に落とした。そして、チョコ全体にまんべんなく想いが行き渡るようにしっかりとかき混ぜた。
後は、一週間後のバレンタインデー当日を待つばかり。
他の男性社員へ配る義理チョコにまぎらせて、この魔女チョコを中山君に渡せばOK!
そう考えただけで、心がウキウキしてきた。
「うまく行けば、誰もが羨むほどのラブラブカップルの誕生だわ!」
お気にい入りのラブソングのメロディーをハミングしながら、頬がほてってしまうほどの妄想にふけっていた。
ヤエにもそれなりのお礼をしなくちゃいけないな・・・・
バレンタイン当日。他の女子社員がチョコを渡し始めたお昼休み、わたしも準備したチョコを渡し始めた
「中山君!はい、どおぞぉ~」
わたしは、一見ほかの人達に渡したものと同じ、でも中身は生血入りの魔女チョコを手渡した。
「ありがと!こんなに一杯チョコもらっちゃって・・・」
そう云いながら、中山君は、他の女子社員から渡されたチョコと一緒くたにして手提げの紙袋へ入れていた。
わたしは、中山君の紙袋の中の幾つものチョコを目にして、ふと気になった。
ヤエもあの魔女チョコを作ったのだろうか?
ヤエは、その魔女チョコは誰に渡したのだろう?
確かめなきゃ・・・
「ねぇ、ヤエはれいの魔女チョコは誰に渡したの?」
声をひそめて聞いてみた。
「大丈夫よ心配しなくても、わたしは中山君には渡してないから!」
「よかったぁ~それを聞いて安心したわ!」
わたしは、自分のデスクへ戻った。
数日後、中山君から予定通り誘いの声がかかった。
「ねぇ、キョウちゃん、この間のチョコのお礼ってことで食事でもどう?」
魔女チョコの威力はやっぱり強烈だわ!ヤエに感謝!!
「チョコひとつのお礼に食事なんて、悪くないですか?」
わたしは、心にもないことをしおらしく云ってみた。
「いいのいいの、他の子達も誘ってあるし。それと実は、キョウちゃんにはちょっと別の話もあるから・・・」
「わかりました、では、喜んで!」
他の子と一緒?でも、キョウちゃんには別の話?
中山君が予約してくれたお店は、うちの会社の社員たちが宴会や会合などによく使う中華のレストランだった。
わたしがその店に着いた時には、すでに中山君と2人の女子社員が席に座っておしゃべりを始めていた。
「キョウちゃん、僕の隣へどうぞ」
中山君が手招きしてくれた。
わたしはもちろん喜んで、中山君の隣に腰を下ろした。
他の女子社員の手前、みんな同等にこうして食事をおごって、最後はわたしを送ってくれる・・・そんな演出に違いない!そんな想像をして、胸を高鳴らせていた。
中山君と女子社員5人、それに中山君と同期の梶山君。合計7人のちょっとした飲み会になっていた。
小一時間もして、皆がほろ酔いで雑談も盛り上がっていた頃、中山君がわたしの耳元で囁いた。
「キョウちゃん、実はね」
「はい?」
「君も知っていると思うけど、隣の総務部の小田がね」
「はい、小田さんは知ってます」
「奴さぁ、キョウちゃんのこと思うと夜も眠れないほどで、どうにか二人の仲を取り持ってくれって頼まれたのよ!自分で直接云ったほうが印象いいぞって云ったんだけど、俺っ口下手だから無理・・・って・・・そういうわけ。で、キョウちゃんって今誰か付き合っている人とかいるの?」
「・・・そうなんですか・・・」
わたしは、ひと言云うのがやっとだった。
そして、グラスのビールを一気に飲み干した。
「で、中山君!わたしの渡したあのチョコって食べてもらえました?」
「うん、実はさぁ、俺、あの日、小田とあいつの部屋で呑んじゃって、ふたりでつまみ代わりにもらったチョコを食べたんで、どっちがどのチョコ食べたのかはよくわからないんだけどね・・・でね、その時よ、小田が急に、キョウちゃんへの想いを熱く語り始めたのは・・・」
その話を聞いて、わたしの口から
「ふぅ~~~~~」っと深く大きなため息がひとつ漏れた。
これはきっと、チョコの魔法だわ!どうしよぅ・・・
チョコの魔法を解く魔法、ヤエ知ってるかしら?
バレンタイン間近のある日の社員食堂。
「ねぇ知ってる?」
同期入社の同僚、ヤエが声をひそめて話しかけてきた。
わたしも調子を合わせるように、声をひそめて答えた。
「なに?なに?誰かのうわさ話?」
「じゃなっくって、魔法のチョコレートの作り方よ!」
ヤエはわたしの耳元に顔を寄せてつぶやいた。
「魔法のチョコレート?」
わたしは聞き返した。
「そう、それを好きな相手に食べさせると・・・」
「それを好きな相手に食べさせると?」
「もう、大変なことになっちゃうらしいわよ!」
「へぇ・・・そうなんだぁ~、でその魔法のチョコってどこに売ってるの?」
わたしは、その続きを促した。
「作るのよ、手作り!手作チョコのキットが売ってるからね、それを利用してちょっとした細工をすればOKなんだって」
「ちょっとした細工って、どんな細工よ?」
「いい、キョウちゃん、しっかり聞くのよ」
「もったいぶらずに、早くぅ・・・」
「要するにね、手作りチョコを作って、仕上げに、自分の左手の薬指の先に針を刺して、生血を一滴混ぜる。そして、その生血が相手の全身の細胞と反応して、熱烈な愛に変わるらしいわ!」
「ちょっと痛そうだけど、魔女っぽくてメチャクチャ効果ありそう!」
「でしょ?」
わたしは、早速その日の帰りに手作りチョコキットを買い求めた。
もちろん、昼間ヤエから聞いた魔法のチョコを作るために。
そして、それを愛しの中山君に食べさせるために。
手作りチョコのキットの説明を読みながら早速作り始めた。思っていたよりもかなり簡単にチョコを作ることが出来そうだった。
作業はあっという間に進み、仕上げの段階に入った。自分の左手の薬指の先に針を刺して生血を一滴落してよく練り合わせるだけになった。
まだやわらかいペースト状のチョコの入った容器、その真上に左手の薬指を構え、右手に持ったマチ針でプツリと刺した。
一瞬だけチクリと痛みを感じた。
「この痛みは、愛の痛みね!」
つぶやきながら、わたしはわたしの想いがタップリとこもった生血を一滴、チョコの上に落とした。そして、チョコ全体にまんべんなく想いが行き渡るようにしっかりとかき混ぜた。
後は、一週間後のバレンタインデー当日を待つばかり。
他の男性社員へ配る義理チョコにまぎらせて、この魔女チョコを中山君に渡せばOK!
そう考えただけで、心がウキウキしてきた。
「うまく行けば、誰もが羨むほどのラブラブカップルの誕生だわ!」
お気にい入りのラブソングのメロディーをハミングしながら、頬がほてってしまうほどの妄想にふけっていた。
ヤエにもそれなりのお礼をしなくちゃいけないな・・・・
バレンタイン当日。他の女子社員がチョコを渡し始めたお昼休み、わたしも準備したチョコを渡し始めた
「中山君!はい、どおぞぉ~」
わたしは、一見ほかの人達に渡したものと同じ、でも中身は生血入りの魔女チョコを手渡した。
「ありがと!こんなに一杯チョコもらっちゃって・・・」
そう云いながら、中山君は、他の女子社員から渡されたチョコと一緒くたにして手提げの紙袋へ入れていた。
わたしは、中山君の紙袋の中の幾つものチョコを目にして、ふと気になった。
ヤエもあの魔女チョコを作ったのだろうか?
ヤエは、その魔女チョコは誰に渡したのだろう?
確かめなきゃ・・・
「ねぇ、ヤエはれいの魔女チョコは誰に渡したの?」
声をひそめて聞いてみた。
「大丈夫よ心配しなくても、わたしは中山君には渡してないから!」
「よかったぁ~それを聞いて安心したわ!」
わたしは、自分のデスクへ戻った。
数日後、中山君から予定通り誘いの声がかかった。
「ねぇ、キョウちゃん、この間のチョコのお礼ってことで食事でもどう?」
魔女チョコの威力はやっぱり強烈だわ!ヤエに感謝!!
「チョコひとつのお礼に食事なんて、悪くないですか?」
わたしは、心にもないことをしおらしく云ってみた。
「いいのいいの、他の子達も誘ってあるし。それと実は、キョウちゃんにはちょっと別の話もあるから・・・」
「わかりました、では、喜んで!」
他の子と一緒?でも、キョウちゃんには別の話?
中山君が予約してくれたお店は、うちの会社の社員たちが宴会や会合などによく使う中華のレストランだった。
わたしがその店に着いた時には、すでに中山君と2人の女子社員が席に座っておしゃべりを始めていた。
「キョウちゃん、僕の隣へどうぞ」
中山君が手招きしてくれた。
わたしはもちろん喜んで、中山君の隣に腰を下ろした。
他の女子社員の手前、みんな同等にこうして食事をおごって、最後はわたしを送ってくれる・・・そんな演出に違いない!そんな想像をして、胸を高鳴らせていた。
中山君と女子社員5人、それに中山君と同期の梶山君。合計7人のちょっとした飲み会になっていた。
小一時間もして、皆がほろ酔いで雑談も盛り上がっていた頃、中山君がわたしの耳元で囁いた。
「キョウちゃん、実はね」
「はい?」
「君も知っていると思うけど、隣の総務部の小田がね」
「はい、小田さんは知ってます」
「奴さぁ、キョウちゃんのこと思うと夜も眠れないほどで、どうにか二人の仲を取り持ってくれって頼まれたのよ!自分で直接云ったほうが印象いいぞって云ったんだけど、俺っ口下手だから無理・・・って・・・そういうわけ。で、キョウちゃんって今誰か付き合っている人とかいるの?」
「・・・そうなんですか・・・」
わたしは、ひと言云うのがやっとだった。
そして、グラスのビールを一気に飲み干した。
「で、中山君!わたしの渡したあのチョコって食べてもらえました?」
「うん、実はさぁ、俺、あの日、小田とあいつの部屋で呑んじゃって、ふたりでつまみ代わりにもらったチョコを食べたんで、どっちがどのチョコ食べたのかはよくわからないんだけどね・・・でね、その時よ、小田が急に、キョウちゃんへの想いを熱く語り始めたのは・・・」
その話を聞いて、わたしの口から
「ふぅ~~~~~」っと深く大きなため息がひとつ漏れた。
これはきっと、チョコの魔法だわ!どうしよぅ・・・
チョコの魔法を解く魔法、ヤエ知ってるかしら?