桜の木の下で-約束編ー

「そう言ってもらえるのは光栄だけど、
 ほらっ私、特待生だから。

 テニス部離れること出来ないし。

 でもテニスの部活の合間に、依子先輩が了承してくれたら
 サッカーの方も応援するから」

「だよね、大丈夫。
 
 言ってみただけ、先輩たちには上手く言っとくよ。

 咲の家の状況とか、全部知ってるから」

「うん、有難う。
 ごめんね」


体を動かすことが好きで、
それなりに反射神経や、運動能力もある私は、
中学生時代は所属していたテニス部以外も
時折、試合の時とかのみ要請されて助っ人に行ってた。


だからこうやって、聖フローシアに入学した後も
こんな風に、突然応援を頼まれることもある。

頼まれるのは、嬉しいんだけど
私の立場は、中学生の頃とは違うから
私だけの考えで、軽々しくOKまでは出せない。



それに……今日……
今大会の依子先輩のパートナーに指名された。


大丈夫。

ちゃんと成績を残して、
来期も学費免除をさせて貰う。

今日、その可能性が広がったから。


ふいに、外の方で
生徒たちの歓声が聞こえる。


「えっ?
 何かあったの?

 外の方、騒がしくない?」


思わず司の方を見て話しかける。

「まぁ、咲さま。
 ご存じありませんこと?

 今日の夜は、演劇部の方々の新作の舞台に、
 あのYUKIが曲を提供してくれるので、
 その打ち合わせにいらっしゃる予定なんですよ」



そうやってテンション高く、
私と司の会話に入り込んできたのは、
クラスメイトの奈津子さま。

奈津子さまを初めとする
生徒たちの集団が、
忙しなく校門のほうへと歩みを進める。


皆についていく気力もなく、
溜息を軽く吐き出して、
私はゆっくりと司と校門のほうへと向かった。


YUKIかなんだか知らないけど
私には縁【えん】なんてないわよ。




うちの家、時代劇以外
TVつかないんだから。


お祖父ちゃんが好むものは、
時代劇とニュース。


音楽なんて縁遠いんだから。




そんな私の溜息に気が付いた司は、
慰めるように肩をトントンと叩いた。
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