桜の木の下で-約束編ー
「咲、……ごめん……。
家まで送るよ。
ほらっ、ボクに捕まって」
和鬼は俗にいう、お姫様抱っこで
私をふわりと持ち上げると柔らかに地面を
軽く蹴り上げる。
風が和鬼を包み込み
風になびくプラチナの髪が
私を霞めていく。
和鬼の着物の袖も
風に柔らかく揺れて
ありえない速さで流れていく景色。
あっと言う間に、見慣れた我が家の
二階のベランダ。
「和鬼、……有難う……。
でも……いきなり、
ベランダはちょっとマズイかも。
玄関から入らせて。
祖父に挨拶してからじゃないと」
お願いすると和鬼はまた私を抱き上げて
ふんわりと地面へと着地した。
「……有難う……」
この時ばかりに……
和鬼に抱き着く。
和鬼の両手が
私を包み込む。
「お休みなさい」
「お休み……咲……」
次の瞬間、和鬼は天に飛翔する。
周囲には暗闇だけが広がった。
久しぶりに交わった和鬼との時間。
その時間はとても早くて、
とても愛しくて、苦しい時間。
私は貴方に何が出来るの?
その答えは今も見つからないまま。
この愛しさを募らせながら……
日々の時間を1日、1日、1秒・1秒を
辿りながら貴方を……待ち続ける。
本当の貴方が私に花開いてくれるのを
春を待つ雪恋【せつれん】のように。