桜の木の下で-約束編ー




咲のことが愛しい。

その気持ちは変わらない。




そう……ずっと昔から
ボクは咲を見守ってきた。


咲がボクと出逢う前から。


この鬼の世界と
人間の世界を結ぶ鏡を通して。




グルグルと考え事をしながら
神木の扉から、乾いた枯れ木を踏みしめながら
辿り着いたあばら家。


あばら家に帰宅したボクは、
自らの体を横たえながら、
ボク、本来の役割へと立ち返っていく。


芸能界をYUKIとして存在することだけが
ボクの仕事ではない。


YUKIは仮初。



ボクは鬼。

咲の知らない、
ボクの鬼としての時間が動き出す。


ボクの本来の役割は、
鬼の世界の審判者。


鬼を狩る鬼。
-鬼狩鬼【おにかりき】-


鬼に疎まれた【うとまれた】
同族を狩る【かる】鬼。


それがボク。


広い鬼の世界で
それが出来るのはボク一人。

鬼の世界の
秩序を管理する存在。


そして……、
もう一つは人を守る存在。



誰にも知られず、
その二つの役割を成す存在。


それが桜鬼神【おうきしん】。


故にボクの住処は、
鬼と人間の世界の狭間。


一人しか存在することが許されない
この空間に長く存在出来るのは
今はボク……ただ一人。

閉ざされた孤独な世界。

ただ広い空間。

枯木。
色を失くした世界。

それがボクに
与えられた世界。
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