桜の木の下で-約束編ー
その世界に存在して、
鬼を監視し時に狩り、
鬼の世界に鏡を通して
迷い込んだ人を人間界へと導いていく。
それが鬼としての務め。
*
今日も一人
迷い人来たり……
*
精神を集中させて、
人の世の鏡の全てと意識を通じながら
現状を把握している最中、
ざわついた感触がボクに逆流する。
更に、固定した『鏡』とより深く
通じようと意識を集中させた次の瞬間、
鏡の中へと、ボクはそのまま吸い込まれていった。
辿り着いたその場所には、
血の気のない少女が一人、
力なく横たわっている。
ゆっくりとボクの刀を
少女の額へと翳すと、
真っ白い手が、少女を招きよせている。
鏡の向こうの
声を聞いてしまったんだね。
鬼狩の剣を片手に意識を集中して向かう
その場所。
深い闇色に染まり底なし沼のぬかるみに
捕らわれたまだ幼い人間。
刀を一振り。
周囲の悪鬼を祓い
その幼子が捕らわれた
ぬかるみの水面を歩いていく。
ボクが一歩一歩
歩むたびに、その水面は
波紋を描いていく。
幼子をゆっくりと抱き上げる。
ボクの腕の中、目覚める幼子。
『……目覚めたね……。
名前は?』
「ゆきむら ほのか」
『……そう……。
幸村穂乃花ちゃん……。
さぁ、返してあげるよ。
君の世界へ』