桜の木の下で-約束編ー


ボクは、にっこりと
穂乃花ちゃんに微笑む。


不安そうな幼子は
少し微笑みを見せた。






幸村穂乃花。

鬼狩鬼・和鬼の名において
命ずる。


記を封じ、悪鬼を祓【はら】う。

汝【なれ】の御手【みて】に刻まれし
鬼の烙印【らくいん】狩りとらん








鬼に引き寄せられた人間は
引き寄せられたもことがきっかけで、
心が寄り添った証の
鬼の烙印を御手に刻まれる。


鬼はその烙印を手掛かりに
再び、通い合わせようと鏡を渡る。


それを封じるための烙印の狩りとり。


記憶を封じ人の世に送り出す浄化の儀式。


全ての儀式を形式的に済ませて、
幼子の魂を……鏡越しに「肉体」へと
送り届ける


-還霊【かえりたま】の送【おくり】-




幼子が静かにベッドで
眠り始めたのを鏡越しに
感じとってボクは、
再び住処へと帰る。



そして魔性の夜は過ぎて、
人の世は朝を迎える。



人の世で住まう
いつもの日々が訪れる。



務めを終えた鬼狩の剣を
何時もの場所に安置して、
ボクは、神木の回廊を渡り、
いつものように……街を見下ろす。



桜の木に座りながら、
この一夜【ひとよ】守り通せた
この世界を慈しみ、風を感じながら。


鏡を隔てた二つの世界。


 
二つの世界それぞれに、
命を育む種。




そのどちらをも監視する
唯一の鬼【存在】。
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