桜の木の下で-約束編ー
静かに目を閉じる。
ボクの瞼の裏に映し出されるのは、
咲が慌てて駆け上がってくる様子。
「おはよー。
和鬼」
にっこりと笑って
ボクに話しかける少女。
……ボクは……
彼女の笑顔を何時まで
奪わずに済むだろうか。
……彼女の……
柔らかな笑顔を。
ボクの本当の姿を
知ってしまった彼女は、
ボクに笑顔を見せてくれるだろうか?
沢山の鬼を裁いてきた血に染まった
このボクを。
「あれっ。
和鬼、どうしたの?。
ほらっ、和鬼っ!!」
「いやっ」
慌てて咲の言葉に、今に立ち返る。
桜の神木から舞い降りて、
息吹【いぶき】を操り、
YUKIとしての姿を形成すると、
ボクは咲の通学路をゆっくりと一緒に歩いていく。
「そうだ。
咲、今日の夜は逢えないよ」
YUKIとしてのスケジュールを
思い浮かべながら告げる。
「知ってる。
今日は23時から生番組だよね。
明日学校なのにYUKI、
TV出るの遅すぎるよ。
なんで 20時とか21時の
(うたばん)に出ないかなー」
一人、口籠り【くちごもり】つつ
言葉を続ける咲。
「今日はたまたま23時。
この間は20時の番組にも出たし」
ボクが弁解するように
言葉を紡ぎだすと咲はクスクスと笑い始めた。
「ねぇ、和鬼。
聞いてもいい?
和鬼は昔から私を知ってる?」
「昔から?」
「そう、なんて言うのかな。
前世とか……から……」