桜の木の下で-約束編ー
……前世……?
途端に……ボクの中に
不安が広がっていく。
「最近……夢見るんだ。
雪が降ってる日に
一人の少女が……
鏡の中に消えていくの。
それで和鬼が……泣いてるの」
ボクが泣いてる?
やっぱり……
咲も、ボクのそういう感情には
敏感なんだね。
生涯思い続けるその人と、
咲の存在が、
ボクの中で溶け合ってしまう。
それに対して、
ボクの心が、ボク自身に警笛を鳴らす。
せっかく話してくれた夢の話。
咲が、ずっとボクに隠し続けてきた
その話を咲の言葉で聞くことが、
こんなにも苦しくなるなんて思いもしなかった。
ただ待ち人を探し続けていた
永い時間。
その待ち人が咲だと確信した途端に
息苦しさが包み込んでくる。
早く、この場所から逃げ出さなきゃ。
通学路として歩く山道は、
コンビニの裏側へと歩き終えていた。
「咲、ほら……朝練でしょ。
ボクも仕事に出掛けなきゃ」
逃げ出すように告げると、
咲は、少し拗ねたようにボクに抗議して
学校の中へと走って行った。
*
もう時間がない。
引き返すなら今しかないんだ。
これ以上、ボクたちが
交わることは出来ない。
それはボクが思うところではない。
ボクが
望む世界ではないんだ。
ボクたちは
出逢うべきではなかった。
いっそ、咲の記憶を全て
……消すか……。
だけど彼女にはボクの鬼の気が。
契りが永遠に残り続ける。
ボクのこの命が尽きるまで。
どうしたらいい?
咲を愛しい気持ちも
ボクには大切で、咲を守りたい
咲を傷つけたくないのも
ボク自身の思い。
そして……
咲を苦しめたくないのもボク自身。
どのボクも偽りはない。
相容れぬ複雑なボクの心を
すべて尊重する道は見当たらない。
……咲……
ボクは
どうしたらいい?