桜の木の下で-約束編ー
「皆居なくなったし、
私たちはこのまま帰ろうか?
一花は、咲と一緒に
お茶したがってたけど」
なんて紡ぎだす司の言葉に、
思わず朝の強烈スキンシップ再びを想像して
打ち消すように身震いする。
「ごめん、もうこんな時間。
今から山越えして、
家まで帰らないとだから」
「別に山越えしなくても、
駅からうちの車で
咲の家まで送ってあげるのに」
「ううん。
気持ちだけ貰っとく。
ほらっ、体力作りも兼ねてるから。
一花先輩に、宜しく」
司の前からも立ち去ろうとした瞬間、
司の指先が、私の指先を繋ぎとめて
私の動きを止めた。
「咲、髪に不思議なものがついてる」
そう言って、
髪に手を伸ばす司。
司の掌に残るのは、
一枚の桜の花びら。
「えっ?これって本物?」
透き通るような薄桃色の花びらが一枚。
「あっ、こっちにも……」
そう言った司。
鞄の中から、手鏡を取り出して髪についた
桜の花弁を映そうと開いたとき、
その鏡の中には美しい桜の木と桜吹雪の映し出される。
えっ?
何……?
慌てて、その鏡を閉じて
再びゆっくりと手鏡を開く。
何?
……桜……。
そこに映るのは
……誰……?