桜の木の下で-約束編ー



「……お休み……。

 咲、今日はもう休むよ……」






そう言って和鬼は桜の木の中へと
ゆっくりと帰っていく。





慌てて追いかけていきたい。





なのに、その木の中に手をいれる勇気もなく、
入口は閉ざされる。





独り残された桜の木の下。






私は心の騒めきを隠せなかった。






翌朝、御神木の上で人々を見守る和鬼の姿はなく、
ざわざわとした心を引きづったまま、始業式へと出席した。


何度も和鬼へ送信したメールも、
反応がない。


反応がない不安が、
私の中で大きく広がっていく。


そんな不安が的中したと実感したのが、
その夜の音楽生番組。



その番組に出演した和鬼から、
声が発せられることはなかった。


TVの向こう側。



鼓が響いて、箏の音色が交わっていく。

そしてYUKIの歌声が聞こえるその場所で、
和鬼の声は出なかった。


流れる生演奏だけが空しく空間に響いて、
和鬼は自らの喉元に両手を添えて、
必死に声を出そうとしている。


だけど……YUKIの声は人の心に届かない。


和鬼はその場に立ち尽くし、
司会者が突然のハプニングに詫びを入れ、
CMに急きょ急きょ、繋げられた。


私はテレビ局に向けて、
慌てて家から飛び出す。

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