桜の木の下で-約束編ー



……和鬼に逢いたい……




マスコミが集まりすぎたテレビ局前に、
和鬼の姿はない。




「大変だ。 
 YUKIが失踪したぞ」




記者たちの誰かが声をかける。



失踪?

そんなはずない。


私はテレビ局を離れて、
慌てて桜の木の下へと向かう。


失踪じゃない。

ただ人としての姿を解いて、
視えなくなってしまっただけ。

視せることをやめてしまった。


そんな和鬼が帰る所は、
あの場所しかないはすだから。



息を切らせながら辿り着いた桜の木の下。





そこに……和鬼の姿はない。



私は縋り【すがり】つくような思いで、
和鬼が帰っていったと思われる桜の木に手で触れる。




ふいに桜の木の中に腕が入り込む
感覚が押し寄せ、私はその腕に体重を押しかけるようにして
その中に身を委ねた。



重苦しい空気が……周囲に立ち込める。




息がしづらい、色を映さない物悲しい空間が、
目の前に広がっていた。





……和鬼……。



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