桜の木の下で-約束編ー
誰っ?
思わず携帯の音声を閉じて歩み寄る。
目の前にいる人は奈良時代の礼服(らいふく)っぽい
衣装を身にまとった、
少し貫録ある髭がトレードマークっぽい年配の男性。
男性の視線がこちらに向く。
思わず体を萎縮させるも、
深呼吸して声をかけようと年配の男性の方へ歩み寄る。
「あの……」
思い切って声をかけるも
その声は届かない。
もう少し大きな声で呼びかけながら
その男性の肩をトントンとしようと手を伸ばす。
その手男に触れようとした
私の手は、次の瞬間男の体をすり抜けた。
すり抜けた?
あまりの出来事に体が震える。
そんなことが有り得るの?
本当に、此処は何処?
そんなことを思いながら、
その男の人が向かった先へと私は歩みを進めた。
男が入ったその部屋には、
奈良時代っぽい時代衣装を身にまとった
人たちが大勢いた。
私もその輪の中へと
入っていく。
どんなに手を伸ばしても
立ち止まって声を出しても
誰も私の存在に気が付かない現状。
私は……この世界に存在しない?
えっ、それって言い返せば、
和鬼も私が生きる世界でそうだったってこと?
どれだけ守っても、どれだけ焦がれても、
ありのままの姿では和鬼は触れることが出来ない人間の世界。
だから和鬼は、
いつも……あんなに寂しそうな瞳をしていたの?