桜の木の下で-約束編ー



携帯電話の液晶に映る和鬼を見つめる。



この和鬼は和鬼ではなく、
YUKI。

和鬼の姿のままでは、
写真にすらその姿を捉えることはできない。


YUKIとして存在出来て、
和鬼は和鬼として人間界に受け入れて貰えなかったんだ。



今の私みたいに。




目尻から暖かいものが筋を描いて零れ落ちる。




和鬼はこんな寂しさを
とれくらい耐え続けてきたの?



思わず和鬼が歌うYUKIの曲をもう一度再生する。




蝋燭の炎がゆらめく、
大広間に和鬼の声が静かに広がっていく。





途端に人々が周囲を
キョロキョロとし始める。




思わず耳を澄ませてみると、
桜鬼神っとか何とか人々が、
和鬼のことを話しているのに気が付いた。







『桜鬼神か』

『今更、何を……』

『同族を狩ることしか出来ぬ
 アレを現王は何故のさばらせる』








えっ?

桜鬼神は……和鬼は、
鬼の世界でも嫌われているの?

何故?


更に耳を澄ませてみるけれど、
それ以上は、私には話が見えなかった。


相変わらず、騒めき続ける大広間。


大広間にはたくさんの人々が居るのに、
私の存在に気が付くものは
今も誰も居ない。
< 126 / 299 >

この作品をシェア

pagetop