桜の木の下で-約束編ー
携帯電話の液晶に映る和鬼を見つめる。
この和鬼は和鬼ではなく、
YUKI。
和鬼の姿のままでは、
写真にすらその姿を捉えることはできない。
YUKIとして存在出来て、
和鬼は和鬼として人間界に受け入れて貰えなかったんだ。
今の私みたいに。
目尻から暖かいものが筋を描いて零れ落ちる。
和鬼はこんな寂しさを
とれくらい耐え続けてきたの?
思わず和鬼が歌うYUKIの曲をもう一度再生する。
蝋燭の炎がゆらめく、
大広間に和鬼の声が静かに広がっていく。
途端に人々が周囲を
キョロキョロとし始める。
思わず耳を澄ませてみると、
桜鬼神っとか何とか人々が、
和鬼のことを話しているのに気が付いた。
*
『桜鬼神か』
『今更、何を……』
『同族を狩ることしか出来ぬ
アレを現王は何故のさばらせる』
*
えっ?
桜鬼神は……和鬼は、
鬼の世界でも嫌われているの?
何故?
更に耳を澄ませてみるけれど、
それ以上は、私には話が見えなかった。
相変わらず、騒めき続ける大広間。
大広間にはたくさんの人々が居るのに、
私の存在に気が付くものは
今も誰も居ない。