桜の木の下で-約束編ー



『皆の者、良く聴きなさい。

 私は桜鬼神の審判により、この世界を離れます。

 私の魂は、この世界より離れますが
 私は死ぬわけではありません。

 新たな生命を頂くのです。

 悲しむことはありません。

私の愛しの民人たちよ。

 息災で……。

 私の旅立ちを持って
 我一族の御世は終息を迎えます。

 旅立ちの前に私の大切な和鬼に、
 この世界の王としての役割を託したいと思っています。

 皆様の……意見を……』




凛とした声で一言一言を諭すように
力に強く語るその少女の声に民人からの拍手が沸き起こる。



『咲鬼姫さま、
 異存はありません』

『咲鬼さまの意思を継いでこの世界を守るのは、
 和鬼さまをおいて他にありません』

『私は……嫌でございます。

 愛し合うお二人を桜鬼神は何故に
 引き裂くのでしょうか。

 姫さまはこの地に……留まられるべきです』

『そうだ。
 鬼狩など滅ぼしてしまえ』



次々に厳しい声があがっていく。


だけど……この世界の人たちは、
どうしてそうなるの?



桜鬼神も和鬼も、
同じ一人の存在でしょ?


二人とも同じ和鬼なのに、
一人は受け入れられて、
もう一人はこの地の人々にも受け入れて貰えないの?


悲しすぎるよ。


洋服の裾を握りしめて、唇を噛みしめながら
私は……民人たちを睨む。





『皆の者。
 勘違いをするな。

 私は……桜鬼神を恨んではおらぬ。

 先王である父と妃である我両親を失ったこの場所で
 暮らすのが……辛い……。

 桜鬼神は……私の弱さに気が付いて慈悲の裁きを下しただけだ。
 
 桜鬼神の裁きは私が自分自身で臨んだ裁きなのだと受け止めよ。

 これは我旅立ち。

 良いな。

 皆はこの先の未来、私が愛する和鬼を慕い生きよ。

 私の我儘を許せよ』



少女はそう言い終えて、民たちの顔をぐるりを見渡すと
ゆっくりと大広間から退室した。


人々の声が室内に広がる。
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