桜の木の下で-約束編ー
伸びやかな和鬼独特の声が、
寂しげに室内に広がっていく。
その声に呼応するかのように、
鏡の向こうに本来映るはずのない
吸い込まれた少女の姿が映し出される。
鏡越しに伸ばされる指先。
その指は、愛しき人を求めるように鏡に映し出される。
和鬼は鏡の方に振り返って、
鏡に映し出された少女の指先に自らの指を重ねた。
『咲鬼……幸せに』
鏡越しに重ねる体は、
激しさを増していく。
『和鬼……有難う。
もう……いいから……
そんなに悲しまないで……。
いつか……桜の木の下で……』
*
……いつか……
桜の木の下で……
*
鏡に映った少女の姿が
ゆっくりと遠ざかっていく。
辺りに暗闇が広がる。
その暗闇の中、
和鬼が寂しげに声をあげて泣いていた。
堪らなくなって
私は少年和鬼を抱きしめる。
和鬼の温もりが、
鼓動が私へと繋がる。
少年和鬼を抱きしめながら、
私はゆっくりと瞳を閉じた。
切ない歌声が心の奥に遠くから響いてくる。
透き通る全てを
魅了する高音。
柔らかで、
それでいて力強い歌声。
そんな遠くから聴こえる歌声に
幼い和鬼が重ねあう歌が
私をゆっくりと包み込んでいく。