桜の木の下で-約束編ー
今もぐったりと横たわり続ける咲を抱きかかえ、
立ち上がると、ボクの住処へとゆっくりと歩みを進める。
あばら家に連れ帰って、
咲を布団へ寝かせると、
鬼狩の剣を咲へと翳したまま咲の意識へと
ボクの気を集中させていく。
刀が映し出すのは、
咲鬼の旅立ちの儀の時間。
この世界で起きた旅立ちの記憶を
知った咲はボクをどう思う?
そして記憶を取り戻した君は、
咲鬼として……再び歩き出すの?
そんなことを思いながら、
ボクは、咲鬼との遠い時間を思い返していた。
咲鬼は、
鬼の世界の姫君。
先の国主。
国王が咲鬼の父親。
その妃が咲鬼の母。
その二人に愛されて
鬼の世界に命を受けたの。
多くの民は、
咲鬼のことを咲姫と呼んでいた。
一方、ボクの親は咲鬼の父である
国王に闇の片腕として使えていた家来。
幼い頃から父に連れられて、
お城に出入りしていたボクは咲鬼と出逢い恋に落ち、
咲鬼を生涯かけて守ろうと誓った。
そんなある日、
城から届いた一通の知らせ。
王家の刻印が刻まれた、
その封筒を開封すると、
そこには父が国王の仕事を請け負う最中、
命を落としたことが綴られていた。
それに伴い、国王の闇の片腕・桜鬼神の勤めが
ボクの御代【みよ】になったことを知らせるものだった。
桜鬼神。
鬼を狩る鬼。
その勤めは多々の約定により
堅くとり決められてその禁を破ることは
大罪となり国王によって裁かれる。