桜の木の下で-約束編ー
見られた。
咲鬼の首へと鬼を狩る刀をスーっと近づけて、
ボクは咲鬼の記憶を消した。
だけどボクには和鬼としての
ボクの記憶から鬼神としての記憶まで
ボクの全てを消し去ることは出来ない。
桜鬼神と出逢った、この日の記憶だけ
咲鬼の中から消し去った。
咲鬼の記憶を消した後、
桜鬼神としての姿をとき
ただの和鬼として咲鬼の傍へと向かう。
今、ようやく辿り着いたと言わんばかりに。
傍に近づいて、抱き上げたボクに
咲鬼は泣いてしがみ付いた。
両親が何故死なないといけないのだと、
何度も何度も泣き崩れた。
国王が亡くなった鬼の御世を統治するのは
その娘である、咲の役割。
だが、悲しみに囚われすぎた咲鬼の瞳は、
何も映すことをしなくなった。
鬼の世界に居ては、
悲しみに囚われすぎて前に歩き出せない
そんな咲鬼を傍で見守り続けるのが辛かった。
食を拒否して、
細く細く痩せていく咲鬼。
瞳に色を映さない。
ただ……抜け殻のように、
そこに在りつづける咲鬼の為に、
ボクが出来ることは、
和鬼として傍に居続けることではなくなってしまっていた。
もう一つの力を持つボクだから出来る救いの道。
桜鬼神の力を使って、彼女の魂を人間界へと
導き、転生させること。
それだけだった。
国主と桜鬼神の裁きの契約も
上手く働いてくれた。
両親の死から立ち直れず王族としての、
次の国王たる仕事を放棄した存在。
約定の一つを逆手にとって、
桜鬼神の姿で咲鬼の元へと訪れ、
悲しみの根源でもある両親の記憶を抜き去った。