桜の木の下で-約束編ー


それだけじゃない。
咲鬼を取り巻く、鬼の世界での記憶を奪った。



咲鬼に残されたもっとも深い記憶は
桜鬼神の審判により旅立つこと。



旅立ちの儀。


旅立ちの儀の裏側に潜む、
ボクのエゴの存在など、
ボク以外の誰も知らない。




ボクの罪を裁けるものは
何処にもいない。



咲鬼が託した次代の国主は
ボク自身。


そして国主を裁く、
桜鬼神もボク自身。



相容れぬ役割を
独り、背負ってしまったボクは
裁かれるものも居ないままに
永い時間を彷徨い続けた。






今も眠り続ける咲の額に、
ふと触れる。




彼女の瞳からは涙がこぼれ、
時折【かずき】とボクの名を
紡いているのか……口元が動く。





ボクがどれだけ、ボクのエゴを
彼女に押し付けていても
ボクの想いは変わることがない。



どれだけ自己満足でも、彼女を思い、
焦がれる気持ちが変わることはない。



彼女と鏡越しに……体を重ね……
そして……彼女が転生したことを知った頃から……
彼女を探してボクは人間界に姿を見せる。


桜鬼神の役割を全うすることを正統なる理由に、
ボクは……彼女を探し続けた……。



ボクの空虚さを満たすために、
彼女を見守るために。



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