桜の木の下で-約束編ー
吸い込まれそうな
……朱金の瞳。
透き通るような……
プラチナの髪。
そして頭には
……角が2本……。
人にあるはずのないものが、
その少年にはついていた。
「君の名は?」
鬼の少年は瞬時に、
私に一番近い枝へと移動して
朱金の瞳を輝かせて紡ぎだす。
「譲原 咲」
「……咲……。
君はどうしてここに来たの?」
「この神社を下ったところに
私は家があるから……」
「……そう……。
君はこの神社の子なんだね」
「あなた……何者?」
「ボクの名前?」
夢現<ゆめうつつ>、
その少年との会話は言葉として発しているのか、
発していないのかもわからないくらい不思議な感覚で……。
エコーがかっていて……滲んでいくようで。
「……和鬼(かずき)……」
鬼の少年の声はエコーが強くなり
フェイドアウトしていく。
辺りが眩しすぎるくらいに光、
目前には暗闇が広がった。
先程までの満開の桜も、
桜吹雪も今は何処にもない。
……ただ一枚……。
私の掌の中には桜の花弁が一枚。
その少年が自らの存在を
誇示するかのように残されていた。