桜の木の下で-約束編ー
「お疲れ様。
アルバム作るのって時間かかるんだね。
桜が満開だった春が、
もう梅雨の季節なんだもん。
和鬼がYUKIとして、頑張ってるのは凄い。
って言うか……本当は私たちが頑張んなきゃなのに、
和鬼が台所も私好みの最新キッチンにリフォームしてくれた。
お風呂場だって、お手洗いだって
新しくしてくれて、住みやすいお家にしてくれた。
神社のお社だって」
「ボクが咲と咲久の為にやりたかったんだ。
咲は気にしなくていいよ。
ボクは今、もう一度この世界に戻ってきて良かったって思ってる。
思ってた以上に、この世界は優しいね」
咲にそうやって答えながら、
ボクはもう一つの鬼の世界を思い返していた。
友と一緒に駆け回った
常春【とこはる】の王宮。
だけど一歩王宮を離れると、
そこは階級に応じて、春の世界・夏の世界・秋の世界・冬の世界と
空間が閉ざされる。
その地に住む人たちは、
それぞれの国に応じた気性を育みながら生きている。
そしてボクが住まう地は冬の世界。
春の暖かさが、
何時も恋しい雪深い真っ暗な世界。
凍り付いた心は、
優しさを知らないまま時間だけが過ぎていく。
そんな鬼の地に住む人たちを
ボクは国主として、どうやって導き
桜鬼神としてどうやって人を守ればいいのだろう?
幾ら咲が隣で支えてくれているとはいえ、
二つの相対する役割を担い続けるボクに
その答えはなかなか見つからない。
「さぁ、YUKI明日からは、
LIVEの練習が始まるわよ。
サポートは、今日手伝ってくれてた子たちが
LIVEの時も頑張ってくれるみたいだから。
咲ちゃん、しばらく寂しくなると思うけど
和喜君借りるわね」
自宅に向かう坂道を車で上りながら、
有香が咲へと今後のスケジュールを伝える。
チラリと横に覗き見る咲は、
少し寂しそうに映った。
「咲ちゃん、関係者パス手渡しておくから
来れるときは顔出しなさいな。
その時は、事前に私の携帯に連絡貰えると嬉しいわね」
そう言うと、有香は自宅前に車を停車させて
鞄の中から封筒を取り出して、咲へと手渡した。