桜の木の下で-約束編ー
「有難う。
LIVEが始まっても、
ちゃんとボクは帰ってくるよ。
暗闇に紛れて影を渡ってでも。
ボクは何時も、咲の傍にいるから」
「……うん……。
和鬼が優しいのは、
ちゃんと知ってるから」
そうやってボクに笑いかけてくれる
咲にゆっくりとキスを降らせて
少しだけ鬼の力を流し込む。
不安から不眠になりそうな咲を
穏やかに眠らせてあげたいから、
少しだけ安らぎの夢をあげる……。
流し込んだ鬼の気がすぐに作用したのか、
咲は寝息をたてながら脱力した。
咲を抱え上げて、
ボクの部屋のベッドへと横たわらせると
窓を開けて、ベランダから
闇から闇、影を渡って御神木へと向かった。
ここから先は、夜の時間。
人の姿を解いて、本来の姿を戻ると
桜の回廊をゆっくりと開いた。
鬼の世界は、
相変わらず乾いて閑散としている。
心がズキンと痛む。
この場所に戻る度に、
今の世界がどれほど
ボクに優しい時間なのかを自覚させられる。
咲久と咲に出逢い、
二人はボクに居場所をくれた。
桜の季節から梅雨の今日まで、
ボクが咲と咲久と共に住み始めて、三か月。
どれだけ遅く自宅に帰っても、
台所のテーブルには、
咲の手料理でもある晩御飯が並べられている。
鬼として、桜鬼としてのみ
現在を生き続けてきたあの時代には、
望むことのできなかった幸福が
今、ボクの目の前には広がっている。