桜の木の下で-約束編ー
2.月に叢雲 花に風 -咲-
季節は流れて、
あの日……桜に誘われて和鬼を見つけて
一年が流れた。
一年後、こんな風に
和鬼との時間を過ごしてるなんて
想像もできなかった時間。
春祭りの二日後、
和鬼と共に鬼の世界から帰ってきた私は、
私とお祖父ちゃんの家を由岐和喜の自宅とした。
戸籍上は、由岐和喜としての自宅。
だけど私の中では、
和鬼の家のつもり。
和鬼は、この世界に戻ってきて
YUKIとしての活動を開始した。
今は事務所の方針で、
休息兼2ndアルバムの制作期間中ってことなんだけど
スタジオに籠ってる時間が多くて、
不規則と擦れ違いの時間が続いてた。
一つ屋根の下に暮らし始めても、
和鬼を独占することなんて出来やしない。
寂しいと思う気持ちを
紛れさせてくれるのは、司との時間。
学校生活、テニス、そして昨年から始めた箏。
そして和鬼を家族だと言うことを
自分にも自覚させるかの様に、
毎日、毎食作り続ける和鬼の為の手料理。
*
私だけの和鬼でいて欲しい。
もう置き去りにされるのも、
捨てられるのも怖すぎるから。
*
和鬼に限って、
そんなことは絶対にしないって
思えるはずなのに、
捨てられる恐怖感が拭いきれない。
信じたいのに信じきれない私が
情けなくて大嫌い。
こんなにも弱い私は嫌いだよ。
「咲、何してるの?
もっと集中しなさい。
ボールコントロールを的確に。
さっきのボールは、
もっとちゃんとしたコースが狙えたはずよ」
伊集院先輩の声が、
放課後のテニスコートに響く。