桜の木の下で-約束編ー



「すいません。
 もう一球お願いします」



すかさず気持ちを切り変えて
目の前のボールへと意識を集中させる。


コートを囲んで球拾い中の、
新一年生たちの視線が集まってくるのを感じる。




ボールがトスされて打ち込まれてくるのを
落下地点を予測しながら、先に回り込んでバウンドと共に
一気に打ち返す。


その時に、コートの端から端までに気を配り
確実に抜けるコースへとボールをコントロールする。


前方より構えている二人に対して、
コートギリギリに打ち返す。



「咲先輩、リターンエースだ」



新一年生の声があがる中、
次々と放たれていくサーブを
相手が打ち返せない死角に向かって
打ち込んでいく。



「はいっ、部活終了のチャイムがなったから
 今日の練習は終わりにします。

 明後日からはまた一年生、二年生にとっても
 私たち三年生にとっても重要な実力試験です。

 明日から三日間は練習はありません。

 部活動をしているからと言って、 
 勉強をサボっていいわけではありません。

 各自、勉学に励んでください。

 有難うございました」


「有難うございました。
 お疲れ様でした」



コートの端と端に整列した三年生と、一、二年生組が
一斉にお辞儀をして今日の練習を終えた。


着替えの為に向かった更衣室で、
サッカー部の練習を終えた司と合流。



「お疲れ、咲。
 絞られてたねー」

「まぁね。

 でも、あれは集中力切らせた私が悪いから
 自業自得だよ」

「悩みの種は、もしかしなくても和鬼君?」

 

司の問いかけに、
私は黙って頷いた。



二人着替えを済ませて、
校門を出ると、ゆっくりと横付けされる車。


運転席から運転手が降りてきて
すかさず後部座席のドアを開ける。

中から姿を覗かせたのは、
大学生になった一花先輩。



「ごきげんよう、咲。

 咲が家に遊びに来てくださらないので
 私が押しかけてしまいました」


そう言ってにっこりと微笑んだ後、
一花先輩の濃厚なハグはあの頃から変わらない。

お決まりの絶叫タイム。


ぐったりとした体を立て直して、
車内で平常を取り戻す。

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