桜の木の下で-約束編ー
二つのボクの想いは、
どちらも純粋なのに、
うまく両立できないジレンマ。
それでも……帰れる限りは、
影を渡って、
この場所に戻ってくる。
それはこの地を守護する
ボク自身の役割……。
ボクの居場所を守り続けるために
行わなければいけない、
三つの役割。
三つのボク。
どのボクも両立させることは
ボクの我儘?
深夜、咲の隣で
床に座りながら、
気配を広げて鬼のボクの役割をこなす。
一通り、空間を渡って
鬼の現状、人の迷い人が居ないかを
辿った後、意識を現世に戻すと
携帯が着信を告げる点滅をしている。
*
YUKI
夜分にごめんなさい。
咲ちゃんの様子はどう?
フランスのLIVEの商談が入ってるから、
明日は私が迎えに行くことが出来なくなりました。
伊藤くんに行って貰うから、
いつもの様にお願い。
有香
*
有香からのメールを確認すると、
再び、ベッドにもたれかけて目を閉じた。
ボクに触れる指先の温もりに
目が覚めたボクは約二週間ぶりに、
同じベッド、咲の隣で眠りにつく。
明くる朝、咲が起きだす前に
ベットを抜け出して澄んだ空気の中、
窓を開けベランダから神社へと和鬼として舞い上がる。
有香がくれた、
今日はYUKIの誕生日。
ボクと有香で出逢った記念日。
桜の木の枝に腰掛けて、
街中を眺める。
この景色を愛でるときは
この地を守る、守護者としての
ボクを強く感じる。
居場所を失い、我を見失いかけて
朽ちかけたボクをこの場所で、
咲久が助けてくれた。
この手に流れる消えない紅い血は、
ボクの罪が浄化されるまで
消えることはない。