桜の木の下で-約束編ー





それでもこの場所は暖かくて、
咲は優しい。




孤独の闇に囚われそうになる
ボクを光の世界へ
連れ出してくれた咲。




ボクに居場所をくれた
家族を……ボクは精一杯守り続けたい。






「和鬼、おはよう」





坂道を上がってくる
咲がボクを捕えて話しかける。


元気に体内の気が
中和されて落ち着いている
咲を感じて微笑み返す。



「朝ご飯出来たよ。

 お祖父ちゃん、先に食べてるから
 早く行こう」



手を伸ばされた咲の手を
桜の木から舞い降りて、
ゆっくりと掴み取る。




「……おはよう……。

 咲。
 今日は朝陽が美しいね」

「さっ、行こう」





咲と共に戻ったダイニングには
いつものようにボクに笑いかける
咲久が居て、静かな朝食の時間が始まる。



食事中、会話するべからずな
咲久の方針に従って、
譲原家の食事風景はとても静かだ。


それでも優しさだけは
十分すぎるほど充満していた。



そんな穏やかな空間を
引き裂くように
突然揺れる大地。



グラグラっと揺れだした、
大地に咲久は、咲を連れて
テーブルの下へと潜り込む。



「和鬼、和鬼も早く」



咲の声を聴きながらも、
ボクはこの地全体に、意識を広げて情報を収集していく。



大地が揺れたのは、
この地の結界が崩れたから……。



この地の守り神たる
ボクは此処に居るのに、どうして?


揺れは大きくはないけれど、その振動は、
確実にボクが守り続ける
この土地力を削ぎ落としていく。





ボクが、この地を守ることに
集中していないから?






その直後、
ボクの体に突き刺すような衝撃が訪れた。





「和鬼?

 どうしたの?」





心配そうに覗き込む咲。


そんな咲を感じながらも、
この痛みの正体を鬼の力を解放して辿っていく。




ゆっくりと広げていく意識。




意識は、この地から解放されて
この痛みの在り処へ。
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