桜の木の下で-約束編ー




前回とは比べものにならないようほどに
体の力が抜かれて動くことが出来なくなったボクに
少女は自らの唇を静かに重ねた。



抵抗しようとしても脱力感が強い体は
どうすることも出来ない。




唇が一通りボクを伝うと…
その少女は鋭く尖った爪を
ボクの腕に突き刺しボクの腕から流れ出る
鬼の血を……ペロリとひとなめした。






逃げることも出来ず、どうすることも出来ぬまま
その血を欲するままに飲み終えた少女は
突然、ボクの目の前で悶えはじめる。








鬼狩の持つ鬼神【きしん】の血がキツすぎた?











鬼狩の血は、
他の鬼の血にはない浄化と言う効能もある血だから。
















だけど何故?





目の前の少女は……人。







目の前の少女から流れ出る気は、
人そのものなのにどうして、
鬼狩の血でもがき苦しむの?










もがき苦しむ少女が
意識を失う間際、

『……YUKI……』と


小さく……
馴染みある名を紡いだ。









ゆき?










ユキ……。






















……YUKI……。





















何故、その少女が
その名を紡ぐの?












待ってる。






少女はボクの問いかけに
そう答えた。









……私だけのものに
 なってくれるのを
    待ってるの……









彼女は確かに
ボクにそう言った。










それはどういう意味?

















不思議なことに彼女が意識を失った後、
ボクを襲っていた脱力感は落ち着き、
体を動かせるようになっていた。





再び、体を起こし少女の方に忍ばせてあった
鏡を取り出して向ける。






魔鏡に映し出されて
引きずり出された存在が
やがて具現【ぐげん】をなしていく。




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