桜の木の下で-約束編ー
「YUKIさん、最終確認お願いします」
その声に誘導されるように、
ボクは今日の演出の打ち合わせと、
立ち位置の確認をしていく。
「本番、10分前です。
出演者の皆さんは、移動してください」
番組スタッフの声を受けて、
ボクは、中央階段の裏口へと向かう。
「YUKI、新曲の宣伝も忘れずにお願いね。
今度は、歌詞を即席で変えないで
原文通りに歌うのよ」
原文通りって……
その言葉には、引っかかるものがあるけど
いつものように、微笑み返す。
「今日も届けてくるよ」
「えぇ。
ファンは、貴方のメッセージを
待ってるわよ」
有香さんはそう言うと、
他スタッフの邪魔にならないように、
スタジオの隅へと移動した。
22時頃から始まる音楽生番組。
「本番、十秒前です」
出演スタッフに向けて、
放たれる一言。
時間が来て合図が起きると、
スタジオ内には
オープニング曲が流れ始める。
司会進行役の三人が
中央階段裏から、
ステージ中央へと歩んで
観客とTVの前に居るであろう
観客に挨拶を始める。
番組スタッフに言われるままに、
次から次へと、
出演者たちが裏階段からステージへと姿を見せていく。
「次、Ishimael【イシマエル】さんの後に
YUKIさんお願いします」
スタッフに指示されるままに、
Ishimaelのバンドメンバーが
ステージへと出た後にボクも続く。
「はいっ、本日の最後のゲストは
今、話題のYUKI。
今日は新曲なんかの
話題も聞けるのかな?」
自己紹介と共にステージへと呼ばれたボクは、
YUKIの笑みで、
ゆっくりと中央へと近づいていく。
ボクのファンも来てくれているのか、
観客席から、一際高い歓声が沸きあがった。
番組が始まった途端、
ステージの後ろに作られた
出演者控え席に座って、絶えず微笑みながら
出番の時を待ち続ける。