桜の木の下で-約束編ー








翌朝、目覚めた時も
和鬼の姿はない。



街に出掛ける準備を済ませて
一階へと降りる。





「お祖父ちゃん、おはよう。
 昨日の人たちは帰ったの?」




昨夜の異様な集団を思い出す。




「あぁ、帰られたよ。

 あの方々はこの国を守るために、
 身を砕いて守護してくださる、この大和の宝の御三家。

 御三家の方曰く、この地を守護する結界が
 弱っているのだそうだよ」



お祖父ちゃんはそう言うと、風呂敷に包まれた
紙のようなものを取り出して黙ったままそれを見つめていた。




朝ご飯をお祖父ちゃんと一緒に食べて
片付けると、坂の下まで歩いて行った。



坂の下に停まるのは
司の家の車。




ゆっくりと車から出た制服姿の運転手は
私にお辞儀をして車内へと誘導した。




「ごきげんよう。
 咲」



にこやかに笑いかけた
一花先輩は、
今日も濃厚なスキンシップ。



飽きないねーなんて
ちょっぴり冷めた司。


車はゆっくりと、
今日の目的地へと近づく。




視界に映し出されるのは、
沢山の家族風景。

恋人風景。


忙しなく行きかう人々の姿を
車の中から眺めながら
和鬼はこんなにも多くの人を
守ってるのだと思った。
  

この一人一人の生活を
誰も知らないうちに
和鬼は一人で支えてる。


誰にも気づかれず、
感謝もされず……、
見返りも何も得られない
暗闇の空間の中で。




そうやって考えたら
胸が痛くなった。





だからこそ、
お祖父ちゃんの言葉が気にかかる。




『この地を守護する結界が
 弱っている』





弱っているのは、
和鬼の身に何かが起きたから?



もう和鬼が寂しそうに微笑む姿は
私が見たくない。



ちゃんと守らなきゃ。
私がしっかりして……。

< 193 / 299 >

この作品をシェア

pagetop