桜の木の下で-約束編ー



「咲、どうかしたの?」



車内で、ボーっと
外の景色を見ていた私を
司が引き戻す。



「今日、お祖父ちゃんが言ったの。
 昨日の夜の来客居たでしょ」

「あっそうそう。
 昨日の来客で思い出した。

 あの眼光の鋭かった男の子。

 何処かで見たことあると思って、
 私、調べてみたのよ。

あの子、徳力の現在の代表よ。
 時折、ビジネス誌にも掲載されてるのよね」



そう呟いたのは一花先輩。

すかさず鞄から取り出されたビジネス雑誌に映る
少年の写真。



流石、情報通。

徳力神威【とくりき かむい】小学生。


小学生の文字を追いかけながら、
可愛げがなかった、大人びた眼光の鋭い少年を思い起こす。


「その財閥の坊ちゃんがなんで咲の神社に居たのさ?

 言っちゃ悪いけど咲ん家の神社、小さいじゃない。

 最近はYUKI効果で有名になりつつあるけど
 やっぱり、地元民の為のパワースポットって言うか。

 違う?」



司の言葉がグサリと刺さりながらも
確かに、言う通りでウチの神社は、本当に地元民の為。


氏子の為の神社みたいなところもあって、
観光客がお参りに来ることなんて
本当にない、ひっそりとした神社だった。


今はYUKIがジャケットや写真集で使ってた
場所だーって、情報が流れすぎて
時折、YUKIのコスプレをした人たちが
集まってくる、スポットにはなってるけど。



「あの人たちが
 お祖父ちゃんに言ったんだと思う。 
 
 朝起きたら、お祖父ちゃんがね
 風呂敷に包まれた
 紙を見つめながら言ってたんだ。

 この地を守護する結界が弱まってる
 って」

「結界?」

「何?
 なんか非日常的会話よね」



車内、自分の心の中を吐き出しながら
和鬼を想い続ける。

今日こそは、
元気な姿を見せて。




デパートに到着した私たちは、
車を降りて順番に買い物を楽しむ。


私たちの服なら3階。


和鬼の服は4階。
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