桜の木の下で-約束編ー
10分くらい経って
「あっ、ママだー」
男の子がそう言った視線の先
私が忘れようとしても忘れることがない、
血の繋がりを持つお母さんの顔がそこにあった。
「望、こらぁ。
一人で歩いちゃダメでしょ。
パパもママも心配したのよ」
抱きつく望を優しく抱きしめながら
叱りつける……お母さん……。
じーっと……
母の姿を視線で追い続ける。
「あらっ?何か?」
えっ?
お母さん私が……わからないの?
離れていても
覚えてくれていると思ってた。
なのに……そんな些細な夢さえも
音を崩壊していく。
「ママぁ~。
ぼくをたすけてくれた
おねえちゃんだよー」
お母さんの腕にすっぽりと抱かれながら
腕の中で、私のことを説明する望。
「芙美子(ふみこ)、望、
探したぞ」
お母さんの名前を紡いで、
近づいてくる男性。
その男性の後ろには
望のお兄ちゃんだと思われる
小学生くらいの男の子。
「貴方、あのお嬢さんが迷子の望を……」
母の口から紡ぎだされる
他人行儀な呼び方に耳を塞ぎたくなる。
お母さんは私を忘れて
新しい家族を選んだんだ。
私はとっくに捨てられた子だから。
今のお母さんの中に
私の存在なんてない。
そう思ったら、どうでも良くなった。