桜の木の下で-約束編ー
何も言わず、くるりと振り返って
走り出す。
何処でもいい。
消えたかった。
この寂しさから解放される場所へ
逃げ出したかった。
「おいっ。
君……名前は?」
背後で私からお母さんを奪った
その人が……呼ぶ声か聞えた。
慌てて駆け降りたのは非常階段。
何処に行っていいかなんてわからず、
必死に駆け降りて、雨が降り出した街の中を駆けていく。
雨の街を彷徨いながら
辿り着いたのは小さい頃、お祖父ちゃんの家に来る度に
お母さんと遊びに来てた思い出の公園。
悲しすぎて……涙すらでない。
助けを求めたくても傍で、泣きつきたい
和鬼も今はない。
信じてた。
信じてたのに……お母さん……。
心が悲鳴を上げた。
泣き叫ぶことが
出来たら
どうだけいいだろう。
涙一つ流すことが
出来ないまま
心が凍りついていく。
……和鬼
……助けて……。
苦しいよ……。
『お前の望みはなんだ……?』
何処からか声が聞こえた。
望み?
……何処か
遠くへ連れてって……。
ゆっくりと手招きする真っ白い手。
差し出された掌を
ゆっくりと掴む。
薄れゆく意識の中で……
公園に咲く季節外れの紫陽花が
雨の雫に輝いていた。