桜の木の下で-約束編ー
正直、
こんな空間は苦手だ。
それでもボクは、
見つけると誓ったんだ。
遠い昔……、
ボクの大切な人と……。
時折、目を閉じながら
記憶の中のその貌【かお】を思い起こす。
「有難うございます。
Ishimelの演奏でした。
次は、皆さんお待ちかね。
YUKIさん」
突然、呼ばれたボクの名に驚いて
顔を上げる。
「YUKI、どうした?
少しびっくりしたような顔をして」
メイン司会者の一人が、
ボクを気遣う。
「すいません。
今日は宜しくお願いします」
「YUKIさんは、
こう言う話し合いの場が苦手なんですよね。
確か、前にも仰ってましたよね」
フォローするように、
もう一人の司会者が続ける。
「はいっ。
こういう場所に立つと、
何話していいか
わからなくなってしまいます」
司会者の言葉を受けて、
辺り触りなく答えるボク。
「えっと、YUKIさんに
質問が来ているのですが、
YUKIさんは作詞作曲はどう言うときに
思いつきますか?ってことなんですが……」
「作詞、作曲ですか……。
大切な人を思い描くと、
ふと湧き上がってくるんですよ。
歌詞もメロディーも。
さっきも…… ふと浮かんだその言葉を
煮詰めていました」
会場内の声は、
ボクの言葉に反応して
悲鳴に近い変化を遂げていく。
「大切な人……。
YUKIには心に
秘めた人がいるってことですか?」
「あっ……えっと……」
浮かび上がったその顔を
その名を必死に閉じ込めて、
再び笑みを作る。
「ファンの皆さんに
届けたいメッセージぱかりなので」
瞬時に、鬼の息吹に乗せて
人の意思をコントロールするように
暗示をかける。