桜の木の下で-約束編ー
早く人間界の情報を収集しないと。
目を閉じて意識を集めようとするものの、
まだ桜鬼の力を酷使するには早いらしく
気を高めるだけで、体が言うことを聞いてくれない。
気を高めるのを諦めて、
ボクは必死に体を支えながら、
神木の回廊を渡った。
抜け出したその場所、
いつもと同じ場所なのに、
同じ景色なのに、
その空気は何処か淀んでいた。
その淀みがボクを縛り付けるかのように
見えない何かで縛り上げていくようで
身動きも取れず、
息すらも吸えなくなってその場に倒れこんだ。
★
次に目が覚めた時、
和喜としての自宅のベッドに
ボクは寝かされていた。
目を開けた先に、
咲の姿はない。
「まぁ、
目覚められたのですわね」
そうやって呟いたのは、
確か、咲の友達。
成長した今も、無垢な心を忘れず
鬼のボクの姿が視える射辺一花。
「何?
一花、起きたの?」
「えぇ、司。
咲のお祖父さまに伝えてちょうだい」
一花がそう言うと、
司は部屋を出て行った。
ボクは倒れたの?
記憶を辿るものの、
ボクの記憶の糸は何処かで断ち切られてしまっているのか
辿ることが許されなかった。
「一花、咲は?」
そう問いかけたボクに、
一花は目を伏せて、
紙袋を一つ差し出した。