桜の木の下で-約束編ー



勾玉がない。




慌てて手探りで地面に触れながら、
勾玉を探していく。



あっ、鞄。
携帯は?


ライトがあれば、
暗闇でも見つけやすいかも。


衣服のポケットも鞄も手探りで探してみるものの、
私の私物らしきものは、どこにも存在しなかった。



勾玉もない。
私の私物もない。



見つけなきゃ。




決意と焦りが入り乱れた心が
私を支配すると同時に、脳裏には
寂しげな和鬼の貌(かお)が過る【よぎる】。



「頑張るぞ」



部屋で一人、呟いてゆっくりと立ち上がると、
扉を探すために暗闇を歩き始めた。


うん。

視界も大分、慣れた。


入ってくる景色は
時代劇とかに出てくるような
昔の雰囲気。



なんて、祖父のお供をして
隣で見続けていた
時代劇知識を思い出す。




すると扉の向こう、小さな灯りが
ゆっくりと近づいてくる。






誰か来るっ!!






反射的に息を殺し、
何もない部屋の中で
ドアの陰に隠れて身を固める。






灯りはドアの前に静かに止まる。








灯りが消された瞬間、
誰かが入ってくるかも知れない。




恐怖から心臓が悲鳴を上げる。


じっとりと……
冷や汗が出てきて、
手が汗ばんでいく。



ドアの方に意識を向けながらも、
私は部屋の中にも視線を移して、
何か手に取り自分の身を守れそうなものがないか探す。


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