桜の木の下で-約束編ー
*
余計なことは
話さなくていいんだ。
*
ボクの秘密は
誰にも知られるわけには
いかないのだから。
『いつも凄いですね』
『ホント、YUKIが来ると
ここのホールが変わるよね』
『今回は新曲の宣伝を兼ねて
当番組に出演してくれました。
YUKIさんの新曲は各放送局が
一番を奪い合うくらい壮絶な戦いが繰り返されるそうですが
今回はYUKIさんたっての希望で
当番組からの初放送とのこと。
本当に嬉しい限りです。
それでは。
YUKIさんの大人気曲。
【月夜桜】と新曲の【憂季節】
二曲つづけてお楽しみください』
観客を含めて記憶を息吹で
操作したボクは、
何事もなかったかのように
舞台へと移動した。
真っ暗な闇の世界に、
厳かに響き渡る鼓の音。
その透き通った
音に重なっていく琵琶。
背景には液晶に映し出された
満開の桜。
前奏部分が終わるにつれて、
深呼吸をした後、
ゆっくりと愛器のお琴の方へと近づく。
立奏の姿勢で
そのお琴の一音一音に
思いを込めて爪弾いていく。
静かに空間を包み込むように
響き渡るボクの歌声。
マネージャーには、
歌詞通りにと言われたけれど、
今日もボクの心が赴くままに。
何度も何度も、
繰り返し
続けられるその歌詞(うた)に
生吹(いぶき)はない。
その歌詞に生(いのち)は
宿ってないから。
言葉は言霊【ことだま】。
言霊は強い。
だからこそ、
生吹で歌わなければ意味がない。