桜の木の下で-約束編ー











「和鬼?

 和鬼いるんでしょ?」






咲の声がボクを求める。






だけど力を使い果たしたボクは
それ以上、立つことも動くことも出来なかった。







この世界はボクには冷たい。




国主としての和鬼には優しく、
桜鬼としてのボクには冷たすぎる国。

そんなの……、
前からわかっていたはずなのに。



咲の気配を感じる傍ら、
そのまま少し体力が回復するのを待つ。




体を休めている合間に、
咲へ近づいてくるボクのもう一人の親友の存在。


その者の名は、
珠鬼(たまき)。



珠鬼が咲を手招きし、
コントロールを失った理性を取り戻させた。



咲をこの国に連れ込んだのは珠鬼。

珠鬼が刻印を付けようとした際、
ボクが手渡した勾玉が、咲を助けたのだと友は告げた。


その勾玉はボクが預かる、
国主としての宝を閉じ込めたもの。


今のボクが預かるには、
民が認めそうにない国の宝物。


無意識に咲の中の、咲鬼に未来を託していたのもボク。


そして咲は、ボクの期待通り、
王族にしか扱えないその力を使い切った。


その力に我を取り戻した珠鬼は、
咲の中に咲鬼の面影を見つけて傍に付き従う。


珠鬼の話題は、和鬼を心配する言葉から、
桜鬼を罵倒する言葉へと続けられる。



咲が戸惑っているのを感じる。


鬼狩の剣が映す、
咲の表情がこおばっていく。


そんな珠鬼の声に
耳を傾けるなと、咲に願うボク。

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