桜の木の下で-約束編ー



友殺しをしたボクの罪を知って
軽蔑しないで。




珠鬼の言葉で紡がれる、ボクの昔語りを
見届ける勇気もなくなって、
僅かに回復した力で、一気に神木の回廊まで移動すると
ボクは咲を鬼の世界に置き去りにして、人の世界へと抜け出した。

神社の境内に倒れこむように体を横たえる。



「和鬼さま」


再びボクの名を紡ぐのは一花。


「何?
 一花、和鬼帰ってきたの?」

「えぇ。
 でもそのまま境内に倒れこまれてしまって」

「咲は?
 咲は一緒じゃないの?」


荒々しく声をあげる司を制して
一花はゆっくりとボクを見る。




「神様である貴方の身に何が起きてるの?

 この地の空気は、ずっと澄み渡ってた。
 
 それは貴方が、
 この地を守ってくれていたから。

 だけど今は、この地の空気は重く
 息苦しい。

 今もこの場所に居るだけで、
 首を締め付けられているような感覚がおそって
 息をするのをようやくの状態。

 そして和鬼さま。

 貴方のその姿。

 貴方を肌を覆う、黒い影は何?

 貴方を蝕むように広がっていく
 その黒い影は?」





とっくに気が付いていた
ボクを蝕む闇。

一花が気が付いてしまうほど、
広がってしまったのだと、
衣の下の腕を見つめる。



前に見た時よりも、
ゆっくりと広がっている黒い闇。


その場で目を閉じると、
ゆっくりと息を吐き出して
先ほどの時間を思い出す。



玉砂利を踏みしめる
音が近づいてくる。



そこに立つのは依子さん。




依子さんの姿を見つけた途端に、
ボクは残された力を集中させながら、
風鬼の姿を探る。




「ごきげんよう、依子さま。
 こんな夜更けに何か御用でして?」

「一花さま、貴女には関係ありません。

 YUKI、私のYUKI。
 私だけのYUKIになりなさい」



暗示にかけられているかのように
感情がなくなった無機質の声が
ボクの体を再び縛(ばく)していく。



意識が遠のきかけた頃、
咲久の声がボクを呼ぶ声が聴こえた。




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