桜の木の下で-約束編ー




『浄化の焔【ほむら】よ~』



幼い少女の声が神社の空間の中に響いて、
鈴の音が周囲を包み込む。



その鈴の音が空間全てに浸透していくと、
先ほどまでの自由がきかなくなっていた
ボクの体を縛る重圧は薄らいでいた。




その背後、もう一人の女性の前に顕現【けんげん】するのは、
水神・蒼龍。


蒼龍が空間を引き裂くように放った
水の渦は依子さんを巻き上げて
天高く消えて行った。




『桜鬼神、我が手を煩わすは何用か?』




一族に伝わる天界の龍の一人。



蒼龍の突然の登場に
ボクは言葉を失ったまま
ただ静かに頭を下げた。




蒼龍の姿はそのまま薄れていき、
境内いっぱいに蒼龍の神気が充満して
清らかな空間が広がり木々の葉が嬉しそうにざわめく。




「何?
 
 蒼い鱗の甲冑を纏った
 長い黒髪の女性がいましたわ」



興奮気味に蒼龍を捉えた
一花は告げるものの、司は何も返さず、
ただ茫然と起きたはずの何かを探ろうと、
視えないなりに考えているようだった。



「和鬼さま。

 今宵は、この咲久の家で
 お休みくださいませ」



そう言った咲久。






咲久にかけていた暗示もとけたという事か。





一度かけた暗示も術者の力が弱まれば
その意味はなくなる。




それほどまでに
ボクの力は弱まってしまっているの?




和喜の為の部屋。




ボクは一人、部屋へと閉じこもり
ボク自身のあの日からの記憶を辿っていく。







紅葉と名乗った少女。


その人は、
依子さんだという事がわかった。


そして依子さんが見つけたのが風鬼。


風鬼は依子さんの願いを聞き届けるために
鬼として契りを交わした。


鬼の血が混じった依子さんが
風鬼によって憑代【よりしろ】として名づけられた名前が紅葉。


だけど風鬼は、
すでにボクが手をかけて葬った存在。


風鬼の正体は誰なの?





そして咲もまた鬼の世界へと白い魔手に導かれた。



咲を招き入れたのは、
同じくボクの親友・珠鬼。




ボクの親友(とも)が、
二人もボクの大切なものを
奪い取ろうとしている。

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