桜の木の下で-約束編ー



それは……あの日、三人で生きて行こうと思っていた
友の輪を桜鬼としてのボクが断ち切ったから?


再び、負の連鎖に囚われかけたボク自身を
咲を思うことで、今に引き戻す。



今も住人のいない咲の部屋。


何時もなら、
あの部屋で眠っている時間。



咲を迎えに行かないと……。


あの世界は鬼の世界。
咲の居場所ではない。


あの場所で手を紅く染めていくのは
ボクだけで十分だから。


咲には、
この光の世界で歩いて欲しい。




そう思うなら、
どうしてはボクは咲に勾玉を渡したの?




矛盾して支配下にすら置けない
ボク自身の心。



今、咲は珠鬼と一緒に行動してる。


咲を珠鬼に預けていると安心だと思う心と、
咲を巻き込まないでほしいと望むボク。


二つのボクが常に表裏となって、
今を迷わせていく。


真っ暗な部屋。
時計の秒針だけが耳に付く。




深呼吸を何度か繰り返して、
ボクの生吹を確認する。


体内に一通り行きわたったボクの力。


蒼龍の加護をその身で感じ、
ベッドを抜け出してベランダから神木の回廊へ。






ふわりと神木の前に舞い降りた時、
先程見かけた、蒼龍に縁のある者がボクを捕えた。




「鬼神、体は回復したのか?」



まだ幼い姿の少年の瞳が
ボクをキツク捕えて言葉を発する。



「神威、何をしている」


神威と呼ばれた少年の後ろ、近づいてきた青年。



青年の体からは、雷龍の気配が漂う。



「飛翔、部屋を抜け出した鬼がいる」



そうやってボクを指差す。



指を指した方向に青年も視線を向けるものの
青年はボクが視える存在ではないようだった。




「神威、暁華と柊さまと三人で、
 神社の境内の隅々まで見てきたよ。

 でも何処にもないの。

 柊さまの力でも、この地の気を乱すものが
 見つからないの」



そう言いながら近づいてくる幼い少女が二人。

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