桜の木の下で-約束編ー



「珠鬼、冬は何処?」




突然、大声をあげた私に、
珠鬼は小さく告げた。




「一度王宮に戻り、
 春の宮を出て、冬の宮に入りませんと
 冬の街には出られません。

 ですが……冬の街は罪人の街と
 伝えられています。

 姫様が出掛けられる場所では
 ありません」



冬の街は、罪人の街?



あの場所が本当に、
和鬼が住んでいる場所なら
彼は今も、
自分を戒めて律しながら
歩き続けてるってこと?





その場所の意味を知って、
改めて、
胸が締め付けられそうになる。





私、和鬼の罪を開放した
気になってた。




和鬼がずっと首から下げていた
咲鬼から託された、首飾りを断ち切って
解放できたと思い込んでた。 






……和鬼……。






「それでは、姫様。
 また明朝」




自室へと移動すると、
襖が珠鬼の手によって、
静かに閉じられた。



まだ会えぬ、
和鬼を想いながら眠る夜。





少しでも和鬼を感じたくて、
勾玉を握りしめながら。




翌朝、
珠鬼の声が静かに響く。


「咲鬼姫さま、
 お目覚めでございましょうか?」

「起きてるわ。
 珠鬼、何度言ったらわかるの?

 私は姫じゃないって言ったでしょ?

 私は咲鬼の記憶があっても、
 それは知識であって私の記憶じゃないの」




この世界に来てから、
私の眠りは浅いらしくて、
何時もなら気が付きもしない、
人の声レベルで目が覚める。



自分の家に居た時は、
沢山の目覚ましと、携帯電話。


何段にも構えて、
連鎖攻撃で
ようやく目覚めてた私なのに。



布団から体を起こして襖を開く。
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