桜の木の下で-約束編ー
頭を垂れて、
お辞儀をしている珠鬼。
「申し訳ありません。
ですが、あなた様は確かに咲鬼姫さま。
鏡の向こうに旅立たれたとはいえ、
王の血を受け継ぐ、王家の血統には違いなく
この珠鬼、呼び捨てにするなど鬼の血が
させてはくれませぬ。
姫様、ひらにご容赦を」
鬼の血……。
和鬼の……桜鬼の力で
鏡の向こうの世界である人の世に降り立った私。
私の記憶の知識が告げる前世。
それでも……私の中にも
鬼の血が今も受け継がれているなんて
考えられない。
「姫さま、朝餉の仕度が整っております。
本日のお召し替えの衣、こちらに置いておきます。
着替えの後、お越しくださいませ」
扉の向こう、
珠鬼の気配がスーッと消えていく。
珠鬼の気配が消えた後、
ゆっくりと扉を開く。
桐箱に収められた真っ白な着物。
ゆっくりと手元に引寄せて
身につけていく。
真っ白な着物の上には、
帯を結んで小さな紋が刻まれた
鈴のついた短刀を帯に差し込む。
帯から出た鈴は、チリリン・チリリンっと
可憐な音を響かせる。
その鈴を身につけることを許されたのは
王族のみ。
王族の血を受け継ぐもの以外は、
その鈴が可憐な音を響かせることがないのだと
珠鬼に聴かされた。
旅立ちの日、咲鬼から和鬼へと託された
王家の証は巡り巡って私の手元へと戻ってきた。
和鬼が私と出会ったのも
私が世界に引き込まれたのも
全ては必然なの?
一人で答えを出そうとしても
思うようには見つからない。
王族の証である短剣を手に
触れながら静かに和鬼を思う。