桜の木の下で-約束編ー
貴方は今、
何処で何をしてるの?
この世界に来たら
貴方に会えると思ってた。
この世界に来たら、
もっともっと貴方のことを知れると思ってた。
私が知らない貴方のこと。
貴方がいつも、
憂いを帯びた切なそうな表情を浮かべている
本当の意味も……
わかると……思った。
蓋をあけたパンドラの箱は
私が思ったものとあまりにも違いすぎて。
和鬼……。
咲鬼が貴方を追い詰めたのなら、
私が貴方にしてあげられることは何?
咲鬼ではない咲鬼の記憶を持つ私が
貴方にしてあげられること……。
貴方を苦しみから
解放させてあげるすべはあるの?
一人、心の中で和鬼を思いながら短剣を握りしめる。
刀の刃に姿を映し出す。
刀はやがて、私の姿を消して
鏡の向こうの世界を映し出す。
満開の桜。
式服を身に纏い、
桜の幹にゆっくりと手を触れる祖父。
「おじいちゃん……」
思わず呟いた言葉に、
ほんの少し祖父が私を見つけてくれた気がした。
その祖父の隣にも、
和鬼の姿は今もない。
チリリン。
また涼やかな音を響かせる王族の証。
「咲鬼姫さま。
珠鬼にございます。
何か不都合がありましたでしょうか?」
遠慮がちに扉の向こうから再び声を発する。
私がどんなにキツイ言葉をぶつけても、
珠鬼の態度が変わることはない。
いつも私のことを気にかけてくれてる。
珠鬼の優しさは十分に
この世界に来てから感じているはずなのに
素直になりきれない。